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ほんとうの父はぼくが成人するまで、そして成人してからも連絡をよこすことはついぞなかった。なにかのっぴきならない事情があるに違いない。幼い頃はそう考えるようにして、いつか父から連絡が来るのを心待ちにしていた。一年が経ち、数年がすぎても父からは連絡どころか、便り一つなかった。ほんとうの父はぼくのことを愛してなどいなかったのだと思った。父を憎み、世界じゅうのありとあらゆる父という対象を呪った。
クリストファー・ミルンが書いた『クリストファー・ロビンの本屋』を高校生の頃に読んで、かつて世界にぼくと同じようにじぶんの父を憎み、父はほんとうにじぶんを愛していたのかと疑心暗鬼にかられた人間が存在していたことに文字通りぼくは救われたと思った。そして彼のようにぼくもいつか父のことを許したいと思った。
あまりにも有名な物語の主人公としての自己と、父の名声。自分を利用し作家になった父への反発と戦争、そして両親からの独立。作家の道を諦め、妻と共に作りあげた本屋の日々と父の死。
「クマのプーさん」を書いたA.A.ミルンの息子クリストファー・ミルンがさまよいながら探した、ほんとうの自分自身の物語。
本文ヤケ・見返しヨゴレあり。
(1983年・晶文社)