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アメリカの匂い、というものを意識したのはいつのことだろう。郷里の古着屋で履いたリーヴァイスのジーンズやネルシャツの匂いも強烈だったが、なんといっても90年代に東京の中古レコード店で嗅いだ中古レコードの香りが忘れられない。特に、渋谷の〈ハイファイ・レコード・ストア〉に置いてあるレコードたちから漂ってくる香りはプウンとホンモノの香りがした。友人たちと高速バスで早朝の新宿にたどり着き、店が開店するまで喫茶店で時間を潰す。東京の中古レコード巡りをしている中でいちばんフレンドリーだったのがハイファイ・レコードだった。ぼくは引っ込み思案だったのでほとんど大江田さんや番頭の松永さんとお話しできなかったが、リンク・レイやデヴィッド・ポメランツ、アルゾ。友人たちが次々に試聴をお願いしたレコードたちのことは今でも覚えている。そうそう、それに、なんといってもあのレコードの匂いだ。あの香りとともに音楽とずっと向き合ってきた大江田さんの本が出る。しかも読み応え充分のヴァラエティブックという体裁で。こんな最高なことがあるだろうか。
高校時代に結成したフォークデュオ「林亭」からレコード会社勤務、AMラジオ番組の選曲者、音楽ライター、レコードショップ「ハイファイ・レコード・ストア」の経営者へ。常に楽しみながら音楽と向き合ってきた大江田信さんの50年間にわたるコラムやエッセイ、インタビューやアメリカ買い付け日記をまとめた豪華ヴァラエティ・ブック。
(2025年・国書刊行会)