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できることならば、忘れてしまいたい。いっそのこと、なかったことのように蓋をして。毎日が忙しく、恋愛や仕事やそのほかのわずらわしい世俗のことに関わり合っているうちにぼくらが経験したあの日の記憶はどんどん消えていく。10年も経つと、10年も経てば、記憶は風化する。つくづく人間というのは気まぐれで勝手なものだと思う。
被災者、という括りで感動のドラマばかり伝えてくるマスコミにも、おれたちは被災者じゃないから語る資格がない、と黙りを決める人びとのなかにも真実はない。
ただ、経験したことのなかに真実があり、その人のドラマがある。あのとき、どんな場所にいようとも。ありのままに受け取り、語ること。人の口から人の口へ。語り継いでいくこと。それがぼくたちがやるべきことだとこの本はぼくらに伝えている。
いとうせいこうの『福島モノローグ』はさまざまな人びとの"あの日起こったこと"とそれからの人生を集めた記憶のモノローグだ。
(2020年・河出書房新社)