new
誰かにとってそれが黄金だったとしても、誰かにとってそれは単なるゴミに見える。
韓国系移民のキム・ヨンマンが1987年、ニューヨークのイースト・ヴィレッジに開いた〈キムズビデオ〉は世界じゅうのありとあらゆるレアビデオが集まっていた。各国の映画祭に出向いたり、大使館に手を回し、55,000本にのぼるレアビデオ・コレクションを集めたという。25万人もの会員のなかには若かりし頃のコーエン兄弟や『ジョーカー』を撮ったトッド・フィリップスも。サブスクの台頭などにより店は2008年に閉店してしまうが、そのレアビデオたちを丸ごとそっくりイタリアのシチリア島にある市が譲り受けて、管理してくれるというおいしい話が舞い込む。しかもその所蔵庫で映画の遺産をしっかり管理して、市では定期的に映画祭を開催したり、元会員がやってきた時には無料でレンタルできるという素晴らしい条件で。ところが元会員の一人だった本作の監督デイヴィッド・レッドモンがシチリアのその所蔵庫まで出向いたときには、所蔵庫は誰にも開放されておらず、肝心のビデオたちは埃を被ったままの劣悪な環境で放置されていた。その放置されたビデオたちを前にレッドモンは自分の内なる声を聞き、突拍子もない行動に移る。
東京でのトークイベントの翌日。雨がそぼ降る有楽町の映画館でぼんやり観始めて、見終わる頃には不思議な感動で胸がいっぱいになり思わずTシャツまで買ってしまったアシュレイ・セイビン&デイヴィッド・レッドモン監督によるドキュメンタリー映画『キムズビデオ』。公式パンフレットとして制作された映画雑誌『南海』第6号はまるまるキムズ・ビデオ特集。映画に登場する名(迷)作ビデオの紹介や監督へのインタビュー、柳下毅一郎らによるコラムなど、映画の精霊たちに守られた本映画をよく知ることのできる最高のガイド本。
(2025年・ロウバジェット)