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そういえば、いつだって酒場で酒を飲んでいた。
元号が変わった日も。子どもが生まれた日の夜も。
上司に理不尽なことを云われ、しょげかえっていた夜も。自営業をはじめた頃のダメダメな日々も。
誰かと気の利いた話をしたり、内緒話がしたかった夜も。ひとりぼんやりビールジョッキを口に運ぶ夜も。いつだって酒場の灯はそこにあって、わたしたちを照らす。眼前が暗くても、明るくとも、酒場を出るころにはすべてがうまくいく(気がする)。いまはそんなエッセイを読みたいのだ。
「この世の中に存在する「酒場」は数知れない。本を読んでも読んでも決して読み尽くせないのと同じように、毎日どんなに食べ歩いたとしてもすべての店を訪れ尽くすことは到底できない。でもだから楽しいのだと思っている。私には私だけの酒場白地図というものが頭の中にあり、好きなお店や何度も行きたいお店、行ってみたいお店などを日々その地図に少しずつ書き込んでいく。その作業が楽しい」(「はじめに」より)
横浜、野毛、鶴見、川崎、西荻窪、渋谷、武蔵小杉に長野、名古屋、京都まで。忘れえぬ酒場40軒の黄金色のメモワール。酒場をくぐり、美味しいものに舌鼓を打ち、酒を飲みながら胸に去来すること、さまざまな随想をめぐらす。
私家版ながら大きな話題を呼んだ『酒場の君』が書き下ろしを加えてついに書籍化。文筆家・武塙麻衣子待望の一冊。
(2024年・書肆侃侃房)