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『沈黙の春』で知られる海洋生物学者・作家のレイチェル・カーソンは生涯独身でした。晩年、早逝した姪の遺児であるロジャーという男の子を養子に引き取り、惜しみない愛情を注ぎ育てます。そう、『センス・オブ・ワンダー』に登場する甥のロジャーは彼女にとっての忘れ形見。死期を悟った彼女がロジャーへ、そして未来の子どもたちへ綴った伝言とも言うべきその本は、レイチェルにとって未完の遺作となりました。
幼い子どもが雲のたなびきや海の潮の流れ、鳥の声や木のゆらめきを眺め、手に触れ、その存在に目を見はる。そして自分はなぜここに存在しているのだろうとしずかに胸を震わせる。
レイチェル・カーソンの遺作『センス・オブ・ワンダー』を30年ぶりに新訳した研究者・森田真生が、自身が暮らす京都から2024年の『センス・オブ・ワンダー』書き継ぐ。目の前のものを「見る」のではなく、知識や時間という概念を超えて「感じる」こと。多様に織りなすこと。人間がこの地球に生きること。本原的なものの意味をしずかに問う一冊。
(2024年・筑摩書房)