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"3月11 日は「発生時刻の14 時46分に外に出て空を見上げて黙祷した。あかねもあの時大変だったね」と書いていました。この日はすごく静かな日だったような気がします。空がすごく青くて。14時46分になると「ブーン」という防災無線が遠くから聞こえてきて。あれだけ大きなことがあったのに、一年後の今日はこんなにも静かなんだなと思いました。"
(わたしは思いだす、風に揺れるカーテンを。)
いつかきっと、忘れてしまう。あの日の空の高さも。凍てつくような寒さも。スーパーの人だかりも。眠れぬ夜を過ごしたことも。ラジオのスイッチを切れなかったことも。蝋燭の灯りの、あのなんとも言えない美しさも。
2010年6月、仙台市で第一子を出産したかおりさん(仮名)が出産日から付けはじめた育児日記。その翌年に起こった大震災によって、かおりさん家族の生活や取り巻く環境は大きく変化しますが、かおりさんはなお手書きで日記を綴り続けました。それから10年の歳月が流れ、かおりさんは自分の日記を再読することによって、自分のいつか消えてしまうかもしれない記憶をたぐり寄せ、口述によって記憶の点と点をつなぐことによって、自分の日々を語りはじめます。4018日分、30万字を超える日記から浮かび上がるのは、10年という時間を生きたひとりの女性、ひとりの母親の生活史。
"市井の人びとの記録"に着目したアーカイブ・プロジェクトAHA!による自主出版レーベル第1弾、ついに刊行。
(2023年・AHA)