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仕事を辞めたばかりで無職の志朗は、映画館でコール・ガールの美恵子と出会う。なんとなく会話を交わし、なんとなく距離を近づけあった二人の、ちょっとしたドラマと逃避行。そしてエンドロールに添えられる「野菜スープ」。片岡義男の短編「人生は野菜スープ」はそのようにして始まり、そのようにして終わる。
ヴィシソワーズのようにあっさりともしておらず、ブイヤベースのようにじんわりと染み渡るわけでもない。さりげなく、それでいてどことなく希望のあるラストは読み返すたびに好きになる。
石井好子、星野道夫、高山なおみ、岡本かの子、辰巳芳子ら極上の書き手によるスープをテーマにした掌編やエッセイ61篇を収録したとっておきのアンソロジー。
(2022年・筑摩書房)