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O・ヘンリはテキサスの銀行づとめをしていたとき、横領の容疑をかけられ
ホンジュラスに逃亡した。やがて遠く離れて暮らす妻が病で倒れたことを知ると合衆国に戻り服役。模範囚として過ごしたのち小説を書きはじめた。
富豪なのに満たされない者、放蕩息子、泥棒やホームレス、探偵や警官、未亡人にショップガールなど、ヘンリは市井の人びとのなかでもどちらかというとアウトサイダーである人物の物語を書くことによってそれらの人間たちが構成する都市を浮かび上がらせることに成功した。それは彼もまたかつて周縁にいた人間であったからで、都市を生きるひとりの生活者としての孤独や寂しさや無常感を心のなかに持っていたからだろう。
O・ヘンリのニューヨークを舞台にした短編23編を、名手青山南訳によって蘇らせたアンソロジー。
(2022年・筑摩書房)