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"ぼくが歩いて旅をする人間であり、それゆえに無防備だということを、彼女は知っていたので、ぼくの気持ちをわかってくれたのだ。ほんの一瞬のあいだ、死ぬほど疲れきったぼくのからだのなかを、あるやさしいものが、通り過ぎていった。
ぼくはいった。窓を開けてください、何日か前から飛べるんです"
映画監督ベルナー・ヘルツォークが恩師ロッテ・アイスナーの危篤の報を受け、彼女の境遇に変化をもたらすべくドイツのミュンヘンからパリまで徒歩旅行を行なった記録。巡礼、と呼ぶのが相応しいヘルツォークの魂の彷徨。古書でも入手困難、あっても信じられないくらい高額だった一冊が奇跡の復刊。
(2022年・白水社)