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喫茶店の隅の席に座り、文庫本を読みながら珈琲を啜る。
かつて若者たちはそんな風に無為な時間をもてあまし、いたずらに喫茶店に座りただ珈琲を飲んでいた。
1990年代終わりごろの東京。神保町を、新宿を、三軒茶屋を、下北沢を闊歩していた若者たちはどこに行ったのだろう。
あれは幻影だったのか。もしくは一抹の夢だったのか。
2022年のいま。ひとりの若者が新宿を、淡路町を、一乗寺を、尾道を歩いている。彼も歩き疲れると喫茶店の隅の席に座り、文庫本を開き珈琲を飲む。若者たちはいなくなったのではない。今もそこにいて、かつての自分のような若者を一瞥すると、新聞に目を落とし、珈琲を飲んでいる。
高崎コンパル、淡路町ショパン、今出川リーベ、尾道ポエム。
シンガーソングライター・世田谷ピンポンズが綴る喫茶店と、その周辺にある生活の記録。
(2022年・セルフパブリッシング)