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3,800円

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晩年の作風を知る人は驚くが、初期〜中期の庄野潤三には「不安を描く作家」という形容詞が付いていた。人びとの営みの中にある、夫婦や、家族の、社会のなかにあるよるべない不安を、さりげない筆致で描く庄野文学の魅力は、一見平穏無事に見える事象の裏側にある崩壊的状況を、必死にくい止めようともがく人間たちの小さな物語性にあると思っている。 庄野の8冊目の著書にあたる短編集『道』も、アメリカ旅行記や国内旅行の紀行文の形を借りながら、人種差別や他者とのコミュニケーション不全など、人間の奥底にある根源的不安が描かれる。短編集の中で唯一の創作である短編『道』が突出して素晴らしいのは、妻の不貞を軸として夫婦という共同体の中でドロドロと渦巻く疑心暗鬼や金銭的不安、弱さや脆さが、妻の視点から、まるで旅行者が偶然立ち寄った旅先で耳にした醜聞を書き起こしたように、淡々と、そして時に生々しく描かれているところにある。 "「道」はある一人の女の結婚の記録であるが、人生を旅と見るなら、これも旅中所見の如きものではないかと考へて、この作品集の題名にした。" と巻末に庄野自身が綴っているように、人生を旅と見立てた場合、この短編集から浮かび上がってくるのは主人公の夫婦の旅路である。読み進めていくうちに、そのよろよろと曲くねったか細い一本の道が読む者の眼前にすっと見えてくる。そのような稀有な体験のできる読書という行為はほんとうに素晴らしい。 (1962年・新潮社/古書・カバー・本文共経年ヤケ・オビなし)

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