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1944年、ナチス占領下のリトアニアで抵抗運動に従事していたジョナス・メカスは、ナチスに捕まる寸前のところで、弟のアドルファスと二人で脱出を試みますが、やがて捕らえられ、ドイツの強制労働収容所に送還。難民キャンプで戦後の混乱期を迎え、愛すべき故郷セメニシュケイ村を追われ、ニューヨークにやってきたメカスは弟のアドルファスと一緒に数々の映画を制作。1954年には雑誌『フィルム・カルチャー』を創刊し、1958年から『ヴィレッジ・ヴォイス』紙で週刊コラムの連載を開始します。
帰還すべき場所を失った永遠の「難民」と自身を位置づけ、バラバラに砕け散った自我をパッチワークのように継ぎ接ぎして創作する「日記映画」や「日記文学」を作り上げ、世に発表していたメカス。時にはポレックス・カメラによって、また時にはカメラをペンに持ちかえ、日記という揺らぎの多い断片的なフォームを積み重ねることで、どこにも存在し得ない、唯一の表現形式を作り上げていきました。
『The New York Diaries』は代表的な文学作品かつ、彼の映画作品と等しく重要な位置付けにある最高傑作とされています。まるで百科事典のようなボリュームで綴られているのは、メカスがニューヨークのアンダーグラウンド・シーンで出会った人々、観た映画やパフォーマンス、そして知人や友人たちからの便りやメッセージ。彼がこの世を去ってから1年後に刊行された「I SEEM TO LIVE - The New York Diaries. vol.1, 1950-1969」に続く第2巻であり、完結編である本作は1969年から2011年までのダイアリーが纏められ、映像作品の年代順リスト、バイオグラフィーに加え、錚々たる巨匠らが名を連ねる人名索引が収録されています。
彼が生きた濃密な時間が緻密に丁寧に真空パックされた、本作自体がひとつのアートのような、ずっしりと見応えのある一冊です。「vol.1」と共にぜひお手元に。
(2022年・Spector Books)