山の上ホテル〈ヒルトップ〉のブレンドを嗜む池波正太郎。自ら手挽きのミルで挽き、淹れた珈琲をアラビアのルイージャのカップに注ぎ、〈ローザ洋菓子店〉のロシアチョコレートと楽しんだ安岡章太郎。ブルーウィローの陶器のカップで休憩する安西水丸。村上春樹を例に挙げるまでもなく、作家とはルーティンを重んじる人種である。お気に入りの場所があり、お気に入りの休息の仕方があり、味がある。作家といえばまず「酒」が脳裏に浮かぶものの、やはり「珈琲」も、灰皿と煙草のように文士には相応しい。小うるさく、こだわることのできる小道具だからだろうか。
鴨居洋子、茨木のり子、山口瞳に井上ひさし。著名な作家・随筆家・詩人・イラストレーターらと珈琲の関係、愛した喫茶店やこだわりを伺い知ることの出来る一冊。さあ、これで明日からあなたも文豪の気分で珈琲を一杯。
(2015年・平凡社)