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Amoeba

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ミッドエイジ・クライシスというのはほんとうにあるのだな、と思ったのは40歳をすぎた頃のことだ。それまではあり余るほどの体力や気力に任せて、がむしゃらに仕事をしてきて、それが何となく人生の目的であり、生きがいであると思っていたが、次第にそれは幻想なのだということがある日突然分かってしまったり、ゴールだと思っていた地点に早々にたどり着いてしまうと、途端に自分の人生が色を失ったように感じ、仕事も日々の生活もつまらなく虚しく感じてしまう。上にいる人間たちが組織のなかでうまく立ち回り、適度に力を抜いて仕事をしていることに失望を覚え、自分もいずれああなるのかと暗い気持ちになったし、下は下でかつての自分のような活きのいい後輩たちが、自分のポストを今かいまかと狙っていることに辟易したりするのだ。 ユングは40歳前後を「人生の正午」と呼び、正午を頂点として人生を前半と後半に区別した。前半が職業を得て社会に根付くことや、家庭を築くことなど外的世界へ自己を適応させていくことであったのに対し、後半は自己の内的欲求や本来の自分の姿を見出し、本来のあるべき姿を実現させていく期間とした。 ユングの見解そのままに、ぼくも40歳前後で自己の内的欲求を実現するために組織を飛び出し、本当の自分の姿というものを模索したが、奇しくも同い年でほぼ同じ時期に組織を飛び出し、本来の自分を追い求め、あるべき姿を追い求めた男がいる。TRANSITの元編集長が雑誌を作る過程や、新雑誌の編集長としての苦悩や葛藤も誌面に落とし込んだZINEをリリースしているらしい、という情報を耳にしたのは、ぼくが店舗の契約を進めている頃だった。それからしばらくして『ATLANTIS』という雑誌が創刊され、次の年の1月にはその同い年の編集長・加藤直徳さんと盛岡でトークイベントを開催していた。 トークイベントの後、加藤さんを囲んだ食事の場で、加藤さんはその時温めていたアイデアを矢継ぎ早に興奮気味に話していた。その興奮は止まることなく、食事後盛岡の街を散策しながらも、加藤さんはたくさんの構想やアイデアをその大きな体を震わせながら熱く語った。ぼくはなんて情熱的な人だろうと思った。 それからほどなくしてイベントで上京することになったぼくは、事前に加藤さんから連絡があり、銀座のイベント会場で彼と会うことになった。その場で加藤さんから在籍していた会社を去ったこと、自分で新しく会社を立ち上げたことを聞いた。それに印刷工房を作ったこと、自分たちで印刷製本をして新しい雑誌を作ることも。またしても加藤さんは興奮していた。 それから数ヶ月経ち、加藤さんの新しい雑誌『NEUTRAL COLORS』が届いた。それは、ゴツゴツとしているのに、斬新で前衛的で、かと思うとものすごくわかりやすく、情緒に訴える何かがあった。かつてぼくが読んでいた雑誌と全然違うと思った。そう、その雑誌には加藤直徳という個人が、個人の生きた轍が反映されているのだった。すごい雑誌を作ったんだな。ぼくはこんな同い年がいることがものすごく嬉しかった。(続く) そんな加藤さんの出版レーベルNEUTRAL COLORSの新しい出版物はショーン・ロトマンという一人の男性の極私的な物語がベースになっている。 小説家を夢見ていたLAの青年がニューヨークで運命の女性に出会い、アフリカを皮切りに世界中を旅し、やがて日本の京都に行き着き子どもを授かる。 主人公であるショーン・ロトマンもぼくや加藤さんと同い年の1975年生まれ。加藤さんがなぜ彼の作品に魅了されたのか、ぼくには何となく理解できる。 パーソナルなストーリーが、私的なスナップショットが、日々の心の機微を綴ったテキストがひとつの普遍的な感情に昇華される。それは「人生は美しい」ということだ。でこぼことした畦道ほど、見える景色は雄大で感動的で、まわり道をした経験がいつしかその人間にとっての財産になる。その一人の人間の軌跡を、加藤さんが完全に手作業で本に仕立てる。自ら3回以上版を重ね、リソグラフ印刷を手がけ、一冊ずつ糸をかがって製本を行なう。まるでひとりの人間の生きた証のような本が、加藤直徳というエモーショナルな編集者によって仕上げられる。ショーンによるオリジナル手焼きプリント付き。一冊ずつ手製本のため、お届けに少々お時間をいただきますが、本日よりご予約受付スタートいたしました。ぜひともお見逃しなく。 リソグラフ4色・5色印刷・コデックス装(糸かがり製本)・オリジナル手焼きプリント付き (2021年・NEUTRAL COLORS)