new
"東京はいい。東京はすてきだ。僕は東京を、はなれてとても暮らしてはいけない、東京は僕の恋人である。
東京、東京。僕の東京、君の東京、あなたの東京、お主の東京、ミイの東京、ウイの東京、(ゲップではない。英語だ)汝の東京、貴様の東京、おれの東京、わッちの東京、わらはの東京、お前さんの東京、レコの東京、東京、東京、日本の東京、世界の東京、二人の東京(おだやかでないぞ)みんなの東京。
いくら、ほめても、ほめたりない東京。毎日逢ってもあきない東京、東京、とうきやう、トウキヤウ、TOKYO(ああ、舌がこわばッた)、さよなら"
(とうきやうTOKYO)
友人たちやお世話になっている人びとがたくさん住んでいる東京を、異様な熱狂と不穏な空気に包まれた都市のことを、毎日ニュースで眺めている。
東京はどこへ行くのか。その精神性を失った街はどこへ向かっていくのだろうか。
詩人サトウハチロー がのどかな筆致で鮮やかに描き出した戦前の東京は、おおかたが戦災で焼けてしまって、もうそこには存在しない。生まれ育った東京の町々を、エノケンや、室生犀星や与謝野晶子らとともに闊歩し、コーヒーを飲み、飯を食い、レビューを観る。『フクちゃん』でおなじみの漫画家・横山隆一のユーモラスで細やかな挿絵とともに永遠にここに眠る、ぼくだけの、ぼくが歩きたかった東京。
昭和11年に朝日新聞に連載され、単行本化された詩人・サトウハチロー の東京案内。風情とハイカラ、愛情と憎しみが入り混じる、東京讃歌。
表紙・本文とも強いヤケがあります。
(1936年・有恒社)