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"水中では懺悔も口笛もあぶく やまめのようにきみはふりむく"
どんなに短歌に疎いぼくでも、この歌の凄さは分かる。
尾びれを見やるヤマメのように虚無をたたえ振り向く人。もう水に浸かりきったわたしたちの関係。白々しく口笛を吹いてみても、懺悔の言葉を口にしても、すべてがあぶく(泡)のようにむなしくぱちんと消えてしまう。
こんな歌を詠む女の子はまるできらきらとした向日葵のように明るく、からからと笑いながらぼくたちの住む世界をつぶさに観察し、そこにあるどうしようもないほどの愛おしさも、泣きたくなるくらいのささやかな希望も、すべて短冊に認めてしまうのだ。工藤玲音(歌人の場合はくどうれいんではなくこちららしい)待望の第一歌集は16歳の頃から書き続けてきた短歌作品から厳選した316首を収録。
(2021年・左右社)