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鬼は 逃げる
意味と想像の 追っ手から
愛と悲しみに 満ちながら
ただ 生きようとして
町から町へ 駆け抜ける
鬼は 逃げる
夢と希望の 延びる影から
闇と憎しみを 抱きしめて
ただ 生き抜こうと
山を谷を 越えてゆく
自粛疲れで鋭敏になった神経どうしが行き交うコロナ禍の息苦しい社会に、この詩はじんわりと染み渡る。
疫病が怖いのではない。怖いのは人間の、その余裕の無さと狭量さなのだと。鬼よ逃げろ。生き延びて生き延びろ。
長野・安曇野にあるアトリエを拠点に、詩人として活動するウチダゴウ初の詩集。長野・松本で開催されていたALPS BOOK CAMPでの朗読会や、雑誌『nice things』での連載など幅広い活動を続けるウチダさんの、研ぎ澄まされたミニマルな詩編をこの年の瀬に。印象的なブックデザインはアートディレクター高田唯(All right graphics)。
(2020年・三輪舎)