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盛岡市の中心を流れる川、中津川。
この川にかかる橋のひとつに上ノ橋があります。その上ノ橋のたもとに〈くふや〉という不思議な屋号の飲食店が店を構え、今日も営業しています。その店は外観もそっけなく、店内には骨董品が所狭しと並び、音楽は一切なし。メニューもコーヒーやデザートをのぞき基本的には2品しかありません。一見さんにはハードルの高そうなその店は、食材はもちろん、調度品や食器、並んでいる本に到るまですみずみまで店主であるふたりの美学や思想に貫かれており、食事を終えて店を出る度になんとも形容しがたい高揚感と多幸感に包まれます。唯一無二という言葉がふさわしいその店を36年続けてきた平井久美子さん、小田原良二さんおふたりの軌跡、彼らなりの生き方の知恵のようなものを一冊の本にできないだろうか。おふたりにそんな大それた提案を今年の初めに持ちかけたことからプロジェクトは動き出し、その小さな本「くふや くわづ」がようやくこの度9月30日(水)にリリースの運びとなりました。ぼくは企画・構成・編集を担当、くふやから自費出版という形で出版されます。ふたりの魅力、店の雰囲気を的確に捉えた写真は盛岡市在住で写真にとどまらず、幅広い活動をされている金野大介さんに、ブックデザインはいつもぼくの店のzineを制作してくれている篠田綾香さんにお願いをしました。盛岡の街のぴんと張り詰めた、でもどこか懐かしくあたたかい空気を体現しているようなおふたりの、生きることの矜持が詰まったこの小さな本がたくさんの人に届きますように。
(2020年・セルフパブリッシング)