new






拝啓若尾文子さま。
あなたのまっすぐでどこか哀しみをたたえた瞳。あなたのほっそりとしたながい指。その黒髪とうなじの残り香。増村保造作品ではじめてあなたをお見かけしてから、あなたのことが忘れられません。たとえば井上梅次の〔悶え〕で夫と若い男のあいだを逡巡し、苦悩するあなたの横顔はとても素晴らしいし、川島雄三の〔しとやかな獣〕の狡猾で勝ち誇ったあなたの眼差しも素晴らしい。スクリーンのなかに永遠に閉じ込められたあなたのことをときおり思い出します。これは叶わない恋なのでしょうか。
*
1952年のデビュー作『死の街を脱れて』から1969年『天狗党』まで、女優・若尾文子の大映作品のスチール&スナップをすべて収録。まさに若尾文子決定版。
(2020年・ダゲレオ出版)