濱田英明 DISTANT DRUMS
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濱田英明 DISTANT DRUMS

¥6,620 税込

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旅に出て観光名所に行くことほど愚かなことはないと思っている。風光明媚と言われるその場所には観光客が押し寄せ、最適な位置で写真を撮ろうと皆がひしめきあっている。そうした場所で何が見え、何を感じられるのだろうか。ただ風景をろくすぽ見ずに通り過ぎていくだけではないだろうか。ならばむしろ町や村の中を歩き、人々の営みを観察し、地元の人間が愛する店や場所を訪ねていったほうがよっぽど素晴らしく思い出に残る旅になるのではないだろうか。 村上春樹の「遠い太鼓」は1986年の秋から1989年の秋までの3年間、主にイタリア・ギリシアなどヨーロッパに滞在した日々が綴られている。"この2つの小説には宿命的に異国の影がしみついている”と述べている通り、この時期に彼はベストセラーとなる「ノルウェイの森」を書き上げ、「ダンス・ダンス・ダンス」を書き上げた。そしてこのヨーロッパ滞在中に「ノルウェイの森」が社会現象となるくらいのヒットを記録する。急に文化人の仲間入りを果たし、様々な事を要求する日本のマスコミから離れたかったのが彼がヨーロッパ滞在を決めた理由であるのに、突然彼の外側で狂信的な騒ぎが起こり、彼を支持していた人々は彼から離れていった。 そうした喧騒の最中に書かれたこの旅行記は幾分当時の心境が綴られているものの、比較的穏やかに日々の異国での生活を楽しんでいる様子が描かれている。この旅行記が素晴らしいのは彼の人間観察力とその土地で味わう食事の描写の精巧さだと思う。土地に分け入り、人々の暮らしを眺め、地元の人間と同じ食事を楽しむ。まさに旅行者として理想的な過ごし方をしているのだ。 「遠い太鼓」をかねてより愛読していたと語る写真家濱田英明がなぜ自身の写真集にこのタイトルをつけたのか。 * “遠い太鼓に誘われて 私は長い旅に出た 古い外套に身を包み すべてを後に残して” -村上春樹「遠い太鼓」序文より * トルコの古い唄の引用からはじまるこの村上春樹の序文を引用した彼の写真集は光景との「距離感」をテーマに制作された。誰もが大挙して訪れる観光地でも絶景が写っているわけでもない。むしろ日々わたしたちが過ごしているような毎日のなかにあるような光景。異国でのそうした風景を見ている視点こそが旅をしている感覚であり、異邦人であり、よそ者であるという感覚なのだと彼は分かっている気がする。 (2019年・セルフパブリッシング)