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あのとき、ぼくは授業をサボってセントラルホールに「リアリティ・バイツ」を観に行った。帰りに一番町のアズタイムでコーヒーを飲みながら文庫本を読んでアパートに帰ったはずだ。どうしてそんなことを鮮明に覚えているのかというとこの小冊子にセントラルホール(セントラル劇場)で公開された映画が上映年別に一覧になっていて、ぼくが18歳の頃、つまり1994年に公開された映画の一覧を眺めていたら走馬灯のように記憶が蘇ってきたのだ。
映画館で青春の一時期を過ごした、あるいはいまも過ごしている人々の記憶に残っているのはもちろんスクリーンで観た映画であり、その映画と前後する連続した時間の記憶だ。曖昧模糊としたそうした記憶はどこか甘美でノスタルジックで、そうした記憶と映画がセットになったときに、映画が声となり、われわれになにかを語りかけるのだろう。
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2018年に閉館した仙台の映画館「セントラル劇場」にかつて通った33名によるエッセイ+上映作品リストを纏めた一冊。
それぞれが「一本の映画」を選び、映画館の「記録」と観客たちの「体験」を、文章を通じて繋いでいく試み。
いがらしみきお、伊坂幸太郎、佐伯一麦、濱口竜介などの豪華執筆陣に写真家・志賀理江子撮影のポスター付き。
元観客と元スタッフによるリトルプレス。500部限定。
(2019年・自費出版)